エリュトラー海案内記 & 東方見聞録 & 三大陸周遊記(大旅行記)
- エリュトラー海案内記 上下 訳:蔀勇三 平凡社 本編計p37
- 東方見聞録 訳:月村辰雄・久保田勝一 岩波書店 本編p267
- 三大陸周遊記 訳:前嶋信次 角川文庫 本編p320
- ジパング
- エルサレム
- レパント
- 紅海
- アフリカ東海岸
- インド
- 黒海
- 沈黙交易
- マリ
エリュトラー海案内記 上下 訳:蔀勇三 平凡社 本編計p37
Periplus of the Erythraean Sea
紀元50~70年頃のエリュトラー海と呼ばれた現在のインド洋の港と特産品などの案内。
東方見聞録 訳:月村辰雄・久保田勝一 岩波書店 本編p267
Livre des Merveilles 脅威の書、a Description du Monde 世界の記述
東方見聞録は13世紀後半マルコ=ポーロが陸路フビライに会いに行って海路帰ってくるあいだに聞いた周辺の地域に関するうわさ話。フビライの元にいたマルコ=ポーロの兄弟がキリストの司教への親書を渡すために帰り、再びフビライの元に戻るときに同行した。
三大陸周遊記 訳:前嶋信次 角川文庫 本編p320
tuḥfat al-naẓār fī ġarāʾib al-ʾamṣār wa-ʿaǧāʾib al-ʾasfār
都市の珍奇さと旅路の異聞に興味をもつ人々への贈り物 tuḥfatは贈り物
14世紀前半に生きたモロッコ出身のイブン・バットゥータのイスラム教のエリアを中心とする旅行記。三大陸というのは邦訳時についたみたいで、英訳ではasia&africaになっていたりするようだ。
世界の5大河
ナイル、アル・フラート(ユーフラテス)、ダジェリス(チグリス)、サイフーン(シル・ダリア)、ジャイフーン(アム・ダリア)
+
パンジェ・アーブ(シンドの河 五河 インダス)、カンク(ヒンドの河 ガンジス)、ジューン河(ヤムナ)、イティル河(ヴォルガ)、サルー河(黄河)
世界の5港
アレクサンドリア(エジプト)、カウラム(クイロン インド)、カーリクート(カリカット インド)、スーダーク(クリミヤ)、ザィトゥーン(泉州)
七大帝
モロッコ、エジプト=シリア(マムルーク朝)、イル汗、チャガタイ汗、インド、シナ、キプチャク汗
ジパング
「東方見聞録」では1章でサパングとして日本を紹介している。住民は肌の色が白く礼儀正しい。偶像崇拝者。島では金が見つかるので、限りなく金を所有しているが、この島に向かう商人はほとんどいない。屋根も床も窓もすべて金でおおわれている宮殿がある。赤い鶏がたくさんいて美味。多量の宝石も産する。とのこと。
この話を聞いて、クビライ・カーンは征服しようと思ったらしい。
「エリュトラー海案内記」のほぼ終わりの63節に、ガンジス川のさらに東の最果ての地、朝日の真下クリューセーがある、とされる。クリューセーとはギリシア語で金という意味だそうで、日本のことか!?と思ったのだけど、マレー半島のことだとされているらしい。
エルサレム
「三大陸周遊記」では「イエスのふるさと」という見出しで紹介されている。
ガザは立派な市場や多くのモスクがある城壁のない町。
ヘブロンは、小さいが、大きな力をもち、貴く、外見もうるわしく、内部もまたほむべきところ。
ベテレヘムは、コーラン19章に聖母マリアはやしの樹の根もとで産みの苦しさを起こしたもうた、とあるそうで、そのやしの幹のあとが見られたらしい。キリスト教徒はこの場所を大いにあがめる。
エルサレムは、メッカ・メジナにつぐ聖地。予言者まほめっとはここから天に昇った。聖域は壮麗で、地上にこれよりも大規模なものはない、とのことである。モスクや岩の円蓋電は黄金で輝いている。
キリストの昇天の場所、聖母マリヤやキリストの墓といわれる所もあり、キリスト教徒の巡礼にくるものが多いけれども、みなイスラム教徒に一定の納金をし、いろいろ肩身の狭い思いをしなければならないし、不本意ながらも堪え忍んでいる、とある。
レパント
「三大陸周遊記」でエルサレムのあと海沿いに北に向かう。道中の町はことごとく十字軍によってか廃墟になっている。アッカー(アークル)、スール(ティル)、サイダー(シドン)、タバリーヤ(ティベリヤス)。ベイルートは小さいけど立派な町。アトラーブルス(トリポリ)は十字軍に破壊されたが債権された。
ハラブ(アレッポ)、アンティオキア、ラーディキア(ラタキア)は古い大きな町。
ルブナーン(レバノン)山地、バアラバック(バールベック)は肥沃な地。
ディマシュク(ダマスカス)は東洋の天国、光ののぼるところ、イスラム世界のしめくくり。
紅海
アフリカ東海岸
「エリュトラー海案内記」ではソマリアは「向こう側」、東岸はアザニアー地方と呼ばれている。季節風を利用して航海していて、ソマリアからキルワまで数日おきに港がある。
「向こう側」からは没香、乳香、燻香などが輸出される。
東岸からは象牙、犀角、亀甲、鸚鵡貝が輸出される。
エチオピアはアクソーミテースと呼ばれる地が首都でアクスムだとされるところからナイルの彼方から象牙をアドューリと呼ばれる港まで運んで輸出している。
「東方見聞録」では中インド(インドは大インド インドシナは小インド)。マルコ=ポーロの見聞した話。
スコトラ島(スカイラ) キリスト教だが、ローマ教皇ではなくバグダッドの総大司教(ネストリウス派)に服属している。龍涎香が商品。麦がとれないので米と肉とミルクを常食。裸で暮らす。アデンに向かう船はすべて立ち寄る。海賊が根城にしている。世界でもっとも巧みな魔法使いたちがいて、船を後戻りさせたり、望み通りの風を吹かせたり、不幸や嵐を呼び起こすこともできるらしい。
マダガスカル(マデガスカル) 外周は少なくとも3000マイル。ここより南は潮流が激しくて行けないが、怪鳥グリフォンが出現すると伝えられている。サラセン人 世界でもっとも美しく大きな島。ラクダの肉を食べる。紫壇、龍涎香が商品。豹、熊、ライオンなど多い。
ザンキバル(ザンジバル) 全周2000マイル。大きすぎる! 裸で暮らし偶像崇拝者で独自の言葉と王国で、どこにも朝貢していない。ラクダや象に乗って戦争をする。象牙や龍涎香が商品。
インド東海岸のマアバールからはザンキバル島やマデガスカル島まで20日ほどで到着するが、戻るには3か月以上かかる。
エチオピア(アルバシー) 広大な地方で6つの大きな王国のうち3つはキリスト教、3つはサラセンで1つはアデン方面を占めている。もっとも強大な王はキリスト教徒で中央を占め、ほかの王が服属している。サラセン人は額から鼻のなかばに1つのしるし、ユダヤ人は両頬に2つのしるし、キリスト教徒は両頬と額から鼻のなかばに3つのしるしをつけている。馬を乗りこなし、物産が豊富で、肉と米とミルクと胡麻を常食とする。キリン、熊、豹、ライオン、野生のロバ、駝鳥、オウムなどが多い。多くの町と城があり、たくさんの商人がいて商売が盛んで、美しい麻布、綿布を産する。
キリスト教の国王が自分がエルサレムを巡礼する代わりに遣わした司教がアデンで捕らわれたため、アデンを攻撃して統治下においたそうだ。
「三大陸周遊記」では、ソマリアはベルベラと呼ばれ、首府はアデンの対岸のザイラア、マクダシャウ(モガディシュ)まで15日。駱駝が多い。バナナやマンゴーを調理たりして食べている。
マンバサ(モンバサ)のあるサワーヒル(スワヒリ)、カルワー(キルワ)。キルワはスルタンが治め、贈与には黄金ではなく象牙を使う。ここからイエメンのザファール(ズファール)まで一気に渡った。ここからカーリクート(カリカット)まで28日で行けるが、アデンまでは陸路で1月。インドから輸入する米が主食。
インド
「エリュトラー海案内記」では、基本は海岸沿いの港の紹介。シントス川(インダス)を使ってパンジャブのパルティアに支配されているスキュティアと交易をしている。
この時代からすでに季節風を利用して、岸沿いではなく針路を取ってインドの西岸とアラビア半島と航を航行している。
インドからは、胡椒、真珠、象牙、絹布、宝石、亀甲などが輸出され、貨幣、衣服、錦、硫化アンチモン、珊瑚、ガラス、銅、錫、鉛、葡萄酒などが輸入される。
「東方見聞録」では、帰りに寄ったり見聞したりした海岸部の港単位の紹介で、パンジャブやデカン高原など内陸の紹介はない。そのわりに行き、草原の道を使わず、パミール高原のアフガニスタンの北東の細いワハーン回廊を使って中国に向かったのはなぜなのだろう。
「三大陸周遊記」では、インド人殺しヒンドゥクシュを越えてインダスに沿ってパンジャブ、そしてデリーに向かっている。デリーは巨大都市だったようだ。そこで数年間過ごしたあとカジュラホなどを回り、ダウラターバートを経て、キンバヤ(カンバト湾)から海岸沿いに点々とする。西海岸からマドラスあたりまではけっこう行きつ戻りつしている。一方で東海岸はマドラスあたりからはガンジス河口までは一気に向かうようだ。ジャワ(スマトラ島)に向かっている。
いわゆるサティと呼ばれる、夫が亡くなったあと妻が殉死する場面の描写もある。自発的な行為で、強制はされない、とのことである。
また神の御もとに向かうためガンジスに入水する風習についての紹介もある。
黒海
「三大陸周遊記」トルコの町ではイスラム、キリスト、ユダヤ、ギリシアが区画ごとに住んでいる。アル・アヒール・アル・フィトヤーンという青年同胞団の組織が到るところにあり、異国人を世話し、暴君を懲らしめていて、各町で世話になりながら旅を続けた。
広大な都イスタンブールでは、ローマ皇帝ジョージから、エルサレムやベツレヘムを訪ねたことのあるイブン・バットゥータの手足をにぎりしめたい、と尊重された。
聖ソフィア教会はまだモスクにはされていなくて、イスラム教徒は入ることが許されていない。
サラーイでは、ウーズベック汗がローマ皇帝の話に興味を持った。ヴォルガ河が凍結する時期が移動に最適らしく。凍結になるのを待って橇で進む。
沈黙交易
「三大陸周遊記」ブルガールから氷に覆われた広野を犬橇で40日旅したところにある闇の国。
持ってきた商品をおき去りにして、定めの場所に引きとる。次の日に、商品を置いたところに行ってみると、それとならんで、テン、灰色栗鼠、アルミンなどの毛皮がおいてある。もし商人が自分の商品のそばにある毛皮で満足すれば、それを持ってくるが、気に入らなければ、そのままにしてくる。そうすると、闇の国お住民は、毛皮類を増しておくこともあり、そのまま持って商人たちの荷だけ残しておく場合も珍しくない。これが取引方法である。この地に旅する人々も、取引の相手が魔性のものなのか、人間なのか正体がつかめない。その一人をだに見たことはないのである。
ブルガールが地図上に図示されていなかったので、最初はブルガリアのことかと思ったものの、そんなに寒い場所だったのだろうか、と考えてみると、アゾフ海の北、ロシアのブルガール、ブルガリアの元の場所、を指すようだ。
マリ
「三大陸周遊記」砂漠には虱が多いので、襟に水銀をふくませた糸を巻く。女系の相続。バオバブの続く街道をは治安がよく、腐ったバオバブの空洞には井戸のように雨水がたまってたり、蜜蜂が巣をつくり蜜がとれたりし、機織りをしたりしている。
ここでは黒人が君主に卑屈に服従の意を示していることが意外なように表現されている。イブン・バットゥータはあちこちで君主に会っているが、対等に扱われ、賓客としてもてなされているのが、イスラムの風習のようだ。
黒人は不正行為が少なく、治安がととのい、財産を保護することを長所、男女とも裸で過ごすことを短所と記している。
河馬をつかまえて食べる。
二ジュール河の先、ナイジェリアあたりユーフィーというところはマリの領域外で、そこまでいった白人はいないらしい。